トランプ米大統領が打ち出した「自動車関税」が発動された。だが、第1次トランプ政権の2019年9月に日米貿易協定を結んだ際、当時の安倍晋三政権は「追加関税が回避された」と成果を誇っていた。環太平洋経済連携協定(TPP)等政府対策本部の政策調整統括官として交渉に携わった、渋谷和久・関西学院大教授(外交・通商政策)に、当時を振り返ってもらった。
- 安倍政権と「約束」したはずの車関税ゼロ トランプ氏に迫れない事情
――米国は3日から輸入車に25%の追加関税をかけ、日本車は27.5%に引き上げられました。
「第1次トランプ政権の時も『高い関税をかける』と脅してきたが、日米貿易協定を結んで回避できた。関税を発動する前にディール(取引)をする手法だった。それに対し、第2次政権は、ディールの前に発動するのが大きな違いだ。おそらくトランプ氏は1期目の時に、いろんな人の話を聞いて関税を打たなかったことへの後悔があり、戦術を変えたと思う」
――第1次政権とは、どんなやりとりをしましたか。
「現政権の通商・製造業担当上級顧問のピーター・ナバロ氏は、第1次政権でもトランプ氏の側近だった。彼は『日本を含む各国は非関税障壁がいっぱいあり、不公正な貿易をしている』と入れ知恵していた。日本政府は翻意してもらおうとナバロ氏に接触したが、思い込みが強く、何を言っても無駄だった。そこで、時間稼ぎをする戦略をとった。たとえば、通商担当ではない麻生太郎財務相とペンス副大統領で『日米経済対話』をしたのもそのためだ」
「そうしているうち、米国の経済界や政権内部から『いくらなんでもあんまりだ』という声が高まってきた。当初はトランプ氏の近くにあったホワイトハウス内のナバロ氏の部屋がだんだん遠くなり、最後は追い出された。ナバロ氏の影響力が弱まったところでディールをする日本の戦術がうまくいったが、今回ナバロ氏が政権に戻り、再び大きな影響を与えている」
日米貿易協定とは
環太平洋経済連携協定(TPP)から離脱した第1次トランプ政権の意向で結ばれた。2020年1月に発効した。日本側は牛肉など農産品の関税をTPPで定めた水準まで引き下げる一方、TPPに盛り込まれていた米側の自動車関税の撤廃は先送りされた。米国の関税撤廃率は、世界貿易機関(WTO)が自由貿易協定(FTA)に求める水準に達しておらず、WTO協定違反の疑いがある。
共同声明の外交上ルール
――安倍政権は日米貿易協定を締結した時、「これで自動車への追加関税が回避できた」と説明していました。協定は20年1月に発効しましたが、結局、追加関税は避けられませんでした。
「日米貿易協定を結ばなけれ…